東京友禅の染匠 有限会社ヤマト染芸


江戸真糊糸目友禅工程解説
最も古典的な友禅技法”江戸真糊糸目友禅染(東京友禅・江戸友禅)の工程解説

構想
白生地
下熨斗
下絵羽
下 絵
糸目糊
糸目地入れ
友  禅
空蒸し(色止め)
伏せ(防染)
引き染
蒸し
水元(水洗)
仕上げ
湯熨斗
刺繍
湯熨斗
地直し(染み抜き染色補正)
上絵羽(製品)



此のページは私が解説
いたします。



山憲史 自己紹介

1950年 引染職人外山傳二の長男として東京友禅の中心地,新宿区上落合に生まれました。
子供の頃から染め物に囲まれて育ち、青山学院大学卒業後、京都の名門染匠「染めの西澤」で西澤国一氏に師事。同時に日本画家、田中応喜氏にも師事。1975年より、父外山傳二と共に着物の創作活動開始しもっとも古典的な友禅技法、真糊糸目を使用する友禅染に拘り続
けております。





本物には力がある

私のこだわり その1

 現在行われている手描友禅は、大きく分けて、
1.防染糊にゴムを使用する。
2.防染糊に真糊と呼ばれる餅粉を炊いたものを使う。

 当社製品は勿論 2番目の防染糊を使用しております。
では、何故真糊にこだわるのか。

 上質で高価なシルクを素材として使用する手描友禅の着物は全て高価なものです。この友禅の着物をお客様にお買い上げ頂くには、着て頂いて、満足して頂かなければなりません。着物とお客様との出会いの時、身に纏ったときに感動無くしてお買い上げ頂けるとは思えません。生活必需品、耐久消費財などは機能・デザインに加えてコストのバランスは大切ですが、今や美術工芸品になり、消費財ではなくなった着物を制作するに当たっては、「温もり、味わい」など一言では説明出来ないものが欠かせない思います。この「温もり、味わい」というものは、往々にして、一見無駄に見えて「省いても差し支えないような手順」或いは「代わりのものでも事足りると思われる材料」などに対する考え方で微妙に差が出るものなのです。まさにこの部分にこそ先人達の知恵と職人たち創意工夫、伝統技術のエッセンスが凝縮しているのです。
お客様は意匠の素晴らしさだけでなくこの見えない「味わい・温もり」を見分ける眼力をお持ちの方が多いのです。

以上、真糊糸目友禅に拘る理由です

真糊糸目の特徴はまずその防染力にあります。もっとも、この防染力がなければ、江戸中期に友禅染が発祥する事はなかったわけでよね(笑い)

 【ゴム糸目友禅と真糊糸目友禅
ゴム糸目は扱いやすく,友禅染の着物の普及に大いに貢献しました。反面、防染力が弱く、そのために様々な助剤を加えます。更に下から熱を加えて染料の浸透を良くしながら早く乾燥させつつ彩色します。染料は水分と一緒に熱に引かれて裏に抜けてしまい、表より裏の方が濃くなります。最後の水洗いの時に助剤と共に僅かに染料が流れ落ち、結局意図した色合いより軽い調子に仕上がるのを避けられません。出来上がりは、絵際がシャープでクールな味わいですがどうしても質感に乏しい。


 真糊は防染力が高い故に、基本的に熱を加えず染料を自然乾燥させます。
表の色は挿した色に近く仕上がります。
 そうです。本当の色は自然乾燥が必須。 更に絵際が柔らかく、暖かい温もりのある質感で味わい深い仕上がりです。
欠点は、糊を炊き上げるのも、出来た糊質の維持管理も大変手間がかかるうえに、天候(特に湿度)に左右されやすく、豊富な経験が必要です。しかし、この扱いにくさにこそ代替えの材料・技術では埋める事の出来ない先人達の知恵と伝統技術のエッセンスが凝縮しているのです。
真糊による糸目友禅は先人達と職人さん達の各独自の創意工夫に支えられております。

溶剤で溶くゴムと、餅粉を炊いて作り、水で洗い流せる真糊と絵際のシャープさと質感の違いを想像するのは難しくはないでしょう。シャープでクールな仕上がりのゴム糸目に対して一見泥臭いが柔らかく温もりのある真糊糸目。
私は、後者にこだわることに共感してくださる職人さんたちと、頑固に真糊糸目による友禅のキモノを創り続けます。


私のこだわり その2

染料について

 「お気に入りの着物をお天気のよい日に来て行ったら一日で退色してしまった。」
こんな言葉お聞きになったことありませんか。

 当社製品の染色(日光・摩擦)堅牢度は、7段階評価で5段階以上です。
7 は絶対退色しない染料、これはあり得ません。
6 は実用上最高の堅牢度。5 は実用上問題ないと評価されたものです。
上記の苦情の着物は従来の酸性染料で、特に ブルー系、バイオレット系、ブラウン系は弱く対日光の堅牢土は1?2です。
 当社のキモノは堅牢度が高いが溶解し難く,扱いにくい含金染料を使用しております。

 色が大事な高級品なら「植物染料などの天然染料を使ったら」と思われるかもしれません。
しかし、科学繊維などもそうですが、現代の科学は天然素材より優れたものをたくさん生み出しております。
先人達の知恵や伝統技術のエッセンスを大切にしてゆく事と、より優れたものは取り入れてゆく姿勢は矛盾しないとおもいます。
 製品として、色の堅牢度は絶対に犠牲にするべき項目ではないと考えます。


私のこだわり その3

下絵

 当然ですが図案は大事です。当社の下絵師はすべて青花と呼ばれる露草のエキスを使いフリーハンドで直接白生地に下絵を描きます。紙に下図を書いてそれを写すことはしません。必要なら勿論小下絵は作ります。しかし、下絵師には綺麗だが伸びやかな筆の勢いがない下絵より、筆の勢い、伸びやかさを常に要求しております。
筆の立つ一流の下絵師がフリーハンドで描いた下絵はそのまま残したいと思う程魅力的です。





友禅工程解説

構  想

これは小下絵です。下絵はこの段階で十分に推考を重ねます。




この段階でこの着物のターゲットをしぼります。つまり着物の用途、目標年齢、配色、販売価格まで検討します。


下絵はフリーハンドで一気に描き上げます








当社の染め物は此からご案内するように、すべて分業によって染められております。
よい下絵には糸目糊職人も気合いが入ります。友禅師も素晴らしい閃きが沸き、
正に逸品物の品格ある仕上がりを導き出します。

下の写真は下絵を描く「青花」と呼ばれる露草のエキスを和紙にしみさせたもの。一年に一回しか収穫できないので非常に高価。
古くなったものは下絵が落ちにくくなり危険です。常に今年作られた新鮮なものを使う。







餅粉を炊いて作った(防染糊)糸目糊で下絵をトレースする。
この糊は先人達の創意工夫と各の職人さんが豊富な経験を基に独自に工夫を加えたものです。
糸目糊の質は真糊糸目友禅の生命線と言っても過言ではありません。
この後の仕上がりに大きく左右します。









糊の粘度、堅さ、水分を吸収する速度が重要で、糊は日に日に変質するため、
毎日作業前に調整する必要があります。



【写真左)写真の筒金は糸目糊を引くときに柿渋を塗り固めた和紙で出来た筒状の道具の先に挿して使います。
真鍮製でやはり専門の職人さんによる手作りです。



地 入 れ

糸目糊を生地に食いつかせ、防染力を発揮させるための作業。同時に青ばなの下絵を消す。
この工程も仕上がりに大きく影響します。
糸目糊の糊質、天候(湿度)などを多くの条件を考慮しながら慎重に進めます

 







私たちは「友禅を挿す」といいます。
まさに挿すように染液を生地にしっかりと塗り込んでゆきます。
根気と長時間にわたる緊張感を必要とするこの作業をよく表した言葉だと思います。




友禅師は私たちの指示の通りに仕上げてくれることはあえて言えばプロならば当然です。
しかし私は職人さん達には常にそれ以上のことを要求しております。
つまり私の想像した以上の仕上がりであってほしいのです。

ふつうの高級品なら指示通りにやればある一定のレベルのものはできる職人さんは少なくないでしょう。
しかし私達が目指す事は、作品をご覧になった方に感動して戴かなくてはなりません。
感動なくして高価な着物を買っていただけるはずがありません。
職人さんたちにはまず、その仕事で私を感動させてほしいのです。

そのためには職人さん達の想像力と、そのもてる技術をすべて出し切ってもらわなければなりません。
職人さん達は実際に作業する前に納得ゆくまで何日も推考していることもあります。
大変な作業です。
こんなわがままな要求に応えてくださる職人さん達には心から感謝しております。




ここまでの解説でおわかりだと思いますが、私の仕事は映画のプロデューサー兼監督、といったところでしょうか。
日々妥協のない仕事に励んでくれている優秀な職人さん達に支えられています。



写真の着物は友禅を挿し上げたばかりのトップページの色留袖です。
まだ糊糸目が付いていますし地色も染まっていない状態です。

ちなみにこの色留袖は友禅作業のみで1週間程掛かってます。
推考時間も入れると10日程になるかもしれません。
咲き誇る花に埋もれてしまいそうな「茶や辻模様風」の田舎屋、水車小屋が点在する里の風景です。


染料を定着させるには水分と熱が必要です。タップリの水蒸気で40分程蒸し上げます。




絵柄の部分を餅粉で炊いた糊で防染します。







餅粉を炊いて作った防染糊で柄の部分を伏せたら、平たい刷毛で地色を染めてゆきます。
これを引染といいます。
引き染の前に胡汁(豆乳)を生地にまんべんなく引きます。
 1)生地のタンパク質量を調整し染め付き発色をを良くする。
 2)伏せ糊を生地にしっかり食いつかせ防染力を高める。
目的で施されます。

ここから蒸しをして色を止めるまでの作業では失敗が許されません。
此の段階での失敗は致命的です。
途中で刷毛を休めたら、そこの刷毛の跡(刷毛足)は絶対消せません一度作業を始めたら電話は勿論、
槍が降ってもやめられません。一気に染め上げます。








 引染め用の刷毛は鹿の毛が使われますが冬毛は使えません。上質な鹿の毛は水分をたっぷりと吸収しゆっくりとはき出してくれます。刷毛は高価ですが、梅雨を越すと毛が抜けて使えなくなってしまいます。

もったいないですねー。

これも専門の職人さんの手作りです。


引染め後はタップリの水蒸気と熱で蒸すことにより染料を定着させます。
(この作業は友禅後にも施されます。)

ここでの失敗もやはり致命的です。
ほとんどの場合修復は不可能です。



蒸し後、水洗で伏糊を洗い流します。(水元、いわゆる友禅流し)

余談
 水元(友禅流し)は、私の子供(小学校低学年ぐらい)の頃までは、当社の裏の妙正寺川(神田川の支流です)で行っておりました。染色に微妙に影響する鉄分、カルシューム等が少ない硬度の低い柔らかい水質だったのが、この地域(神田川も含む)に染色が発達した理由のようです。昔の落合をよく知る方にとってはこの風景は落合地区の風物詩でした。たまに反物を本当に流してしまうことがあったそうです。そんなとき、下流の同業者が拾い、各染め屋の札を見て届けてくれたそうです。今では考えられないのどかさでした。




金・顔料などで仕上げ柄にメリハリをつけます。







刺繍をするといよいよできあがりが近い。
刺繍は絵柄を活き活きと引き立たせます。また着物に品格を与えます。









簡単に説明しましたが、仕上がり迄それぞれの行程での細かい作業を入れると25?30行程ほどです。
最後にもう一度湯熨斗をして生地幅を整えます。







このページで工程を追いかけてきた「鳳凰に桐」訪問着の完成品です。



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